健康食品の元祖とも言える「キチン・キトサン」
今ではすっかり定着した素材の一つキチン・キトサン。最近は記事などでも取り上げられる機会が少なくなりましたが、まだ健康食品がメジャーになる30数年前にすでにキチン・キトサン商品は国内で流通されていました。今でこそ、健康食品はあらゆる販売チャネルで販売されるほど一般に認知されてきましたが、30年くらい前は、健康食品市場はまだまだ小さく、販売チャネルも多くはありませんでした。そんな背景でしたが、ネットワークビジネス(連鎖販売)という流通形態によって少しずつ、市場に出始めた経緯があります。
キチン・キトサンは、①細胞を活性化して老化を抑制、②免疫力を強化して病気の予防と回復、③健康な身体には外部の環境が変化しても恒常的に一定に維持しようとするホメオスターシスという平衡、維持能力があり、それを強化し、④自然治癒力を高め、⑤体内リズム(自律神経やホルモンの分泌を調整して生命維持活動を全体的に調整する作用)を調整してくれる等の有用性が期待されている素材。カニの甲殻から抽出したキチン質から、タンパク質とカルシウムを分離し、残されたキチンに濃いアルカリ物質を加えて高熱処理すると「キトサン」という分子量100万以上の高分子質(ポリマー)になります。これがグルコサミンという多糖類の動物性食物繊維に属するキチン・キトサンです。
カニの甲殻は古くから利用されていました。中国・明の時代の漢方の本「本草網目」には、カニ殻の粉末を軟骨にして塗っていたことや、また、団子にして食べると腫れ物やデキモノに効くといったことが書かれていたようです。日本でも漆にかぶれたときに沢ガニをすり潰して塗ったり、高熱が出た時や、お腹が痛い時などに、カニの干した殻を粉にして煎じて飲むという民間療法も残っています。
フランスの化学者であるアンリ・ブラコノー(Henri Braconnot)が1811年にキチンを発見して以来、200有余年が経ちました。
キチンはカニ、エビ、昆虫、茸など多くの生物に含まれている天然の物質で、地球上では年間1000億トンが合成されています。セルロースは酸素、水素、炭素で構成されていますが、キチンはこれらに加えて、さらに窒素が含まれています。キチンは酸やアルカリなどの一般的な溶剤によって溶かすことができません。この特徴が長い間、産業に役立てるためには障害となっていました。
キトサンはキチンを脱アセチル化したもので、キチンのようなアセチル基ではなく、アミノ基を持っているのが特徴です。
キチン・キトサンが工業的に製造されるようになったのは、1971年頃。日本水産の子会社によって世界に先駆けて量産化されるようになりました。当初は主に凝集剤として水処理のための活性がメインでした。以降、キチン・キトサンの基礎研究、応用研究が進展し、研究分野は工学、理学、化学、生化学、農学、薬学、医学、繊維、さらには生物資源、生命環境、化学生命工学など多分野にわたって広がって行きました。生産においてもその技術や品質、生産量など、世界をリードしています。
火傷の治療にも用いられたキチン・キトサンの人口皮膚
平成2年(1990年)の夏、旧ソ連サハリン州から全身に約80%近くの大火傷を負った当時3歳の男の子が、札幌医大付属病院に運ばれ、治療は順調に進み、元気に退院して帰国したことが当時のマスメディアでも連日報道され日本国内でも関心を集めましたが、この治療の際にキチン・キトサンを使用した体内に残留しない人口皮膚が使われて大きな効果を発揮しています。このように人体の組織と馴染む力が優れているので、①出血、②傷み、③滲出液を抑える、④潰瘍を防ぎ、⑤皮膚を正常にする等の効果を持つ人口皮膚として、火傷の治療にも活用されています。そのほか医療分野では創傷被覆剤、手術用糸などがあります。
活用の幅広く、様々な機能性を持つキチン・キトサン
近年ではキチンナノファイバーや低分子キトサンなども注目されています。通常、消費者の目に触れるキチン・キトサンの活用例は、特定保健用食品、健康食品、化粧品、繊維、農業資材などがあります。
化粧品では保湿剤、皮膚コンディショニング剤、皮膜形成剤などとしてカルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサンサクシナミド、ヒドロキシプロピル、アセチルグルコサミンなどが配合されている化粧水、乳液、クリームなどがあります。
特定保健用食品食品では「コレステロールが高めの方」に向けて各種の商品が流通されています。
健康食品では免疫のバランスを整える、脂肪の吸収を抑えるなどの効果を期待してキチン・キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖が活用され、カプセル、ドリンク、打錠などのタイプで販売されています。グルコサミンやN-アセチルグルコサミンが変形性膝関節症の痛みの軽減、症状の改善を目的にした商品が市場を形成しています。
繊維では抗菌・防臭などの働きが期待され、キチンとセルロースを癒合したものや、キトサンを繊維内部に練り込んだものをはじめ、各メーカーが開発した衣類が販売されています。
農業・園芸分野では抗菌剤、活性剤、土壌改良剤などがあります。
このようにキチン・キトサンは多用途に活用されているでもあり、健康美容素材の元祖的存在と言えます。健康・美容業界でも素材の効用性から美肌や内面美容(インナービューティ)といった訴求も十分に可能です。歴史的に見てもしっかりとしたベースが出来上がっており、改めて見直したい素材と言えます。