2021年03月05日(金)

健康寿命の延伸に一役を担うアンチエイジング素材『NMN」

日本人の平均寿命は男女共に80歳を超えている。これは健康状態に関係なく、ただ単に亡くなるまでの年齢の平均値だ。実際には比較的健康で、日常生活も自力でできる「健康寿命」が人生の中では重要になってくる。一般的には平均寿命からマイナス10歳が健康寿命の平均値と言われている。政府の政策の一つとしても「健康寿命の延伸」が提唱されている。そこで、いかに健康寿命を伸ばして人生をできるだけ長く、健康で元気に過ごせるか。平均寿命からのマイナス年齢値を減少させるかがポイントになる。そういった背景の中、アンチエイジングが叫ばれ、これまでも数多くの素材や製品が開発され、世の中に上市されている。

それらの中から最近注目の『NMN』について取り上げる。

 

2000年、サーチュインというタンパク質が老化・寿命を制御する特別な酵素であることがネイチャー誌で発表され、多くの研究者がサーチュインの解明に取り組んできている。その後、サーチュインと深い関わりがあることで注目されてきたのが『NMN』(βニコチンアミドモノヌクレオチド)という物質である。サーチュイン遺伝子を活性化させ、脂肪燃焼効果や自律神経の調整をするなどアンチエイジング素材としてここ数年クローズアップされている。

人は温度、光、音などさまざまな環境因子に晒されながら酸素を利用して食物を分解し、そこから得たエネルギーを使って活動している。年齢を重ねるにつれ、紫外線などによるDNAの損傷や食事による老廃物、有害物質の蓄積などにより、発生し過ぎた活性酸素の影響で細胞機能が低下することが知られている。

若い頃は、機能の低下した細胞は取り除かれて新しい細胞が補充されるのだが、加齢とともに細胞を取り替えるスピードが遅くなり、また機能も低下して、徐々に全身の老化が進行していく。例えて言うと、体内に蓄積された過度の活性酸素が肌のシワや悪玉コレステロールの増加を生み出し、さらなる老化や動脈硬化につながりと考えられているのだ。

また、細胞の機能低下の原因は細胞の中にあるミトコンドリアと深いつながりがあると考えられてきた。ミトコンドリアは、それ自体が独自のDNAを持ち、生物学的呼吸を行うことで、その細胞にエネルギーを供給する役割を担っている。しかし年齢を重ねると、ミトコンドリアの機能は衰え、その結果としてアルツハイマー病や糖尿病など、さまざまな疾病にかかりやすくなるメカニズムが

明らかになりつつある。

 

 そこでミトコンドリアを活性化させることが重要になってくる。では一体、ミトコンドリアを活性化させるにはどうすれば良いのか?

 その回答の一つとして、2000年に米国・マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガランテ教授が酵母の中から発見したサーチュイン遺伝子がある。「長寿遺伝子」「若返り遺伝子」とも呼ばれ、これまでの研究で、人なら誰もが持っていることがわかった。この遺伝子が活性化すると細胞内でミトコンドリアの働きを活発にさせるなど、およそ100にも及ぶ老化要因を抑える効果があると考えられている。つまり、サーチュイン遺伝子を活性化することができればアンチエイジング、若返りにつながることが期待できるのである。

 長寿遺伝子サーチュインは7種類あると言われており、普段は十分に機能していない。そのため、どうすればサーチュインを目覚めさせるかの研究が進められ、2010年目前に7種類のサーチュインを活性化させる物質が発見された。それが『NMN』だ。

 『NMN』は水溶性ビタミンB群の一種であるニコチナミドから合成される物質で、体内でさらにNADというエネルギー代謝の根源的な物質に変換される。NADは身体の機能を保つために必要な成分で、サーチュイン遺伝子を活性化させる。しかし加齢と共に体内で『NMN』を作る能力は低下し、各臓器のNADも減少していく。つまり体内の『NMN』を増やせば変換先のNADも増えて、サーチュイン遺伝子への働きかけも活発化されて若返りに繋がるといった仕組みだ。

「日本薬学会年会要旨集巻2013年133rd」では『NMN』が表皮に及ぼす効果について発表されている。NAD生合成の前駆体である『NMN』を添加し、その影響を検証した結果、『NMN』を角層側に添加すると細胞内の『NMN』量が約100倍になり、NAD量も約4倍に増加した。さらに『NMN』の添加により皮膚保湿に関与する酵素であるカスパーゼ14の発現を誘導。これらの状況から『NMN』を添加し表皮のサーチュインを活性化することにより皮膚の老化が予防できる可能性が示唆されている。『NMN』に関してはこれまでにも効果や安全性に関する実験がマウス実験を経て、ヒト試験でも実証されてきていることからも今後のアンチエイジング素材として注目したい。

 

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