健康ジャーナル

金沢大学附属病院
先端医療開発センター
モニタリング・監査部門長 医学博士
栗林義和 特任教授
  
    

2016年8月16日(火)

進展、深化する水素研究

臨床での有効性、そのメカニズムの解明が進む

健康・美容に良いとされ市場には日々多くの水素関連商品が登場している。その注目度の高さから現在、様々な議論が展開されている「水素」。肯定派、否定派が分かれるなか、水素研究の現在について金沢大学 附属病院 先端医療開発センター 特任教授 栗林義和氏に聞いた。

規模を拡大した臨床試験が始まっている水素

ーー2007年に、日本医科大学の太田成男教授が、「水素が活性酸素を除去し、細胞を保護する」という主旨の論文を [Nature Medicine]に発表しました。その報道で、一般の消費者も水素に注目しました。太田教授の研究成果は、脳の血管を閉塞し、脳梗塞が起こるようにしたラットに水素ガスを吸入させると、梗塞巣が著しく縮小したというものでしたね。それ以来、まだ10年になりませんが、研究が進展しています。先日調べてみたのですが、現在、論文数は400にも及んでいるようですね。

栗林 当初はin vitro(試験管内)での研究、マウスやラットを用いた動物実験から始まり、ヒトでの臨床試験も増えてきました。現在では、規模を拡大した臨床試験も始まっています。私が注目したのは、順天堂大学医学部が行なった、18症例のパーキンソン病の患者さんを対象に、水素水の効果を調べた試験です。方法もしっかりしており、きちんとした論文として発表されています。より正確に効果を検証するために、現在、症例数を増やして試験を実施しており、その結果が注目されます。
また、肝臓がんの放射線治療を受けている患者さんに水素水を飲んでいただき、プラセボ、この場合は水素水に見せかけた普通の水です、と比較した試験では、QOL(生活の質)が改善したという49症例の論文もあります。プラセボ効果というのは、例えば薬効のない乳糖のようなものでも、薬だと思って飲めば、効果が発揮されるのです。これが案外、無視できないのです。その他、30症例規模で脂質、糖代謝の改善が見られたという研究成果も報告されています。しかし現状では、まだ有効性がはっきり断定できる段階ではありません。さらなる研究が必要です。さまざまな臨床試験が実施されているので、期待しているところです。

ーーおっしゃる通りだと思います。今後、人の健康に役立つ研究成果がたくさん生まれることが期待されます。

栗林 動物実験では、脳梗塞や認知機能、心筋梗塞などに対して有効であるとの論文もあります。Nature Medicineでは、活性酸素種のうち、ヒドロキシラジカルだけを水素が捕捉し、細胞を保護して脳の梗塞巣が縮小するという結果が掲載されています。また脚の筋肉の障害にも効果を示すという論文もあります。これらの論文によれば、水素は抗酸化作用だけでなく炎症系のサイトカインに対しても作用しているのではないかとも考えられます。

ーーはい。より広く、深く研究が進み、水素の有効性を明らかにして欲しいと期待しています。ところで一方では、インターネットなどではネガティブな意見も目につきます。

【本紙につづく】

 
 
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