2019.07.08(月)

② 水素とブラックホールの神秘 ~ニュートリノ、水素、電子で創られる生命

(写真1) 地球上の8つの電波望遠鏡を結合させて撮影に成功したブラックホール
(写真2) 活動銀河核からは数十万光年におよぶジェットが吹き出ている。ジェットは、銀河の中心に潜む巨大ブラックホールと密接な関係があると考えられている。

私たちが住む地球から、約5500万光年離れた銀河の中心にある巨大なブラックホールを撮影することに人類は史上初めて成功した。これは世界各地にある8つの電波望遠鏡を連動して得られた成果である。巨大なブラックホールの周辺にある水素を含むガスの濃淡を示す流体の渦がリング状に輝き、中心が影のように黒く見える(写真1)。

ブラックホールは超高密度で強大な重力を持つ天体。あらゆるものを吸い込み、光さえも抜け出すことができない真っ暗な天体だ。これまで多くの天文学者がブラックホールの解明に挑戦し、ブラックホールに吸い込まれるガスが放出するエックス線を観測した。今回の国際チームでは初めてその存在を鮮やかなカラー画像で直接撮影できたことだ。

著名なアインシュタイン博士が提唱した一般相対性理論を裏付ける意味もあり、謎に包まれている暗黒のブラックホールの正体だけでなく、無数の星や銀河、そして生命が形成される過程の解明につながり、宇宙の歴史にも迫る業績と期待されている。

さかのぼれば約40億光年離れた遠い宇宙から飛来してきた高エネルギーのニュートリノを南極の観測施設で捉え、発生源となった天体を突き止めたことも最近のことである。

広島大学の天文台望遠鏡は、約40億光年離れた「ブレーザー」(写真2)と呼ばれる天体から放出されたガンマ線が強まっていることもいち早く見つけた。その結果、このブレーザーが高エネルギーのニュートリノ発生源であることが分かったという。

天体のブレーザーはその中心にある超巨大ブラックホールをエネルギー源として非常に明るく輝く銀河の一種である。天文学の重要な研究対象の天体だが、まだ多くの謎に包まれている。もとよりニュートリノは物質を構成する最小単位である素粒子の一つで、宇宙線が光やガスに衝突した時などにできる。ほとんどの物質をすり抜けてしまうために検出が難しい。小柴昌俊・東京大特別栄誉教授は、約16万光年離れた大マゼラン星雲で起きた超新星爆発によってできたニュートリノを1987年に初観測。その功績により2002年のノーベル物理学賞を受賞している。

今回のブラックホール解明をスタートに、ニュートリノ、そして水素と電子と生命への連鎖は生命現象を究明する「生体物理医学」の新しいテーマになるだろう。

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