2015.08.18(火)

2015年夏期特別号 特別単独インタビュー

東京大学総括プロジェクト機構
「食と生命」総括寄付講座(ネスレ)
特任教授 農学博士 加藤 久典 先生

特別単独インタビュー
人体機能を司る様々な物質を網羅的に解析

 

マルチオミクスの食品研究における成果
全体的な変化を見ることで食品の機能性を明らかに

 

JASIS 2015 先端診断イノベーションゾーンにおいて、 「マルチオミクス解析による食品の機能性研究」と題して、ゲノム、エピゲノム、 トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどの網羅的分析解析を組み 合わせた、マルチオミクスの食品研究における成果をご紹介いただける東京大学加藤 久典特任教授にお話をお伺いした。  

 

---本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、 加藤先生がオミクス解析の研究を始められたきっかけはどんなところだったのでしょうか?

 

加藤 よろしくお願いいたします。そうですね。今年5月に開催された日本栄養・食糧学 会で学会賞をいただいた時の記念講演でもお話しさせていただいたのですが、元々の私の専門 は栄養学です。特にタンパク質やアミノ酸の栄養が専門でした。例えば様々な食品の抗肥満、 抗糖尿病といった機能性や炎症予防などの効果、摂取するタンパク質によって影響を受ける ホルモンについて研究をしていました。そこで初めて遺伝子を対象とした分子生物学的、 もしくは分子栄養学的な解析を始めました。しかし、一方で、2万もある遺伝子1つ1つを 見ていても、きりがないと思い、一度にすべてを調べられないかと模索しておりました。 ディファレンシャルディスプレイなどを使って、いろいろとチャレンジはしていたのですが、 当時の技術では限界がありました。その後、ニュートリゲノミクスが興ってきました。 私はコンピュータが比較的得意だったので、大きなデータにもあまり抵抗がなかったことも、 トランスクリプトミクスに取り組んでみようと思ったのがオミクス解析に関わった要因の 一つかもしれません。

 

---世紀入ってからの機器の進歩は飛躍的でしたね。

 

加藤 そうですね。DNAマイクロアレイが一般的に使えるようになった時期に 私の大学にも導入されましたので、早速これを使って遺伝子発現を調べみたところ、 予想以上に効果的で有効でした。これなら、遺伝子レベルでの食品の体への働きを 非常に幅広く知ることができると感じました。当時のマイクロアレイはチップも容量が 小さくて、データ解析手法もまだまだではありましたが、それでも、相当量の情報が 得られるという事で、ある意味自分の中で方向性が固まったという事がありますね。 ニュートリゲノミクスを始めたのは十数年前くらいからでした。最初はトランスクリ プトミクスから始めて、だんだんとプロテオミクスもやるようになり、ここ5年くらいは メタボロミクスもやってきました。しかし、残念ながら、メタボローム解析はまだ東大 だけでは出来ないので、慶應大学さんや企業さんと協力したりしながら研究を進めてお ります。メタボロミクスは比較的出口に近いので、メタボロミクスのデータを、 プロテオミクスやトランスクリプトミクスのデータと照らし合わせて初めて分かるこ ともあります。皆がマルチオミクスを使って研究を進められるようになるといいと 思います。そのために研究結果やデータベースを公開しています。他の人がそれを使って 新しい研究をしたり、改善したりしてくれればマルチオミクスの研究がより発展して いくと思います。

 

---食品の機能性はなかなかわかりづらいので、 ご苦労も多いのではないでしょうか?

 

加藤 細胞の中で何か起きているのか? といった動きをずっと追いかけていける と面白いですよね。食品の機能性は、薬のようにターゲットに直接働きかけて大きく 変わるという場合は少なく、いろんな分子の働きをじわじわと変えて効いていくという 印象のものが多いので、メタボロミクスのような網羅的な解析をしてみないと何が起き ているのかなかなか分かりません。効果も曖昧なものが多いです。だからこそ、一つの 分子の動きで見るのは難しくても、PATHWAY全体で何となくこっちに動いているといった、 全体的は変化を見るのに、こういったオミクス解析というのは優れているのではないでし ょうか?我々は、データがなければ何も判断できません。データを作るのは分析機器です。 分析機器やコンピュータの能力は飛躍的に進歩しています。ビッグデータの処理能力も 日進月歩です。ぜひ、機器メーカーの方々にも我々の研究内容をしっかりと理解して いただいて、的確なプレゼンテーションをしていただけるとありがたいですね。

続きが気になる方はこちら!
TOPに戻る